だけど、悩んでる暇はなかった。



次の日から、やることは山積みで…
エステに行ったり、美容院に行ったり。
指輪を選びに行ったり、引き出物を見に行ったり。
結婚式の段取りを覚えたり、偽の私の両親や親戚や友達との打ち合わせ…
目が回るような忙しさだった。



気が付けば、那月さんと出会ってから、いつの間にか一か月程が経っていた。
結婚式は、ついに明日だ。
不安がなくなったわけではないけど、とにかく毎日が忙しくて、何も考えられなかったのが却って良かったような気がする。
ずっと考えてたら、不安でたまらなかったと思う。



「ついに明日だな。
いつも通りにやれば良いんだ。
緊張することはない。」

「は、はい。」

「……ありがとうな。」

「え?」

「じゃあ、おやすみ。」

「あ、お、おやすみなさい。」



那月さんとは、必要なことしかしゃべってない。
だから、那月さんのことはまだ知らないことだらけだ。
でも、一緒に行動していて、気づいたことはたくさんある。
行動的で合理的。
頭が良くてやることがスマートで、押しが強い。
それはわかってたといえばわかってたことだけど…



意外と優しい。
意外と腰が低い。



セレブなのに、誰に対しても偉ぶったところがなくて…あ、私に対してはそうとも言えないけど…
大きな荷物を持ってたおばあちゃんを見かけた時、さっと駆け寄って荷物を持ってあげたのにはびっくりした。
ものすごくワンマンな人だと思ってたけど、結婚式については私の要望をいろいろ聞いてくれたし。
いつも気遣ってくれた。



なんか…ちょっとずつ、私の中には恋愛感情みたいなものが芽生え始めてるような気も…