「あ、あ、あの…え、えっと…」

「どうした?顔が赤いぞ。
しかも、すごい汗だが…」

そりゃあそうでしょうとも。
なりゆきで、ハンコ押しちゃったんだもの。



「え、えっと…そ、その…わ、私、け、結婚しても、料理がそんなに…」

「そんなことはしなくて良い。
家事と食事のことは、今まで通り、和代さんがやってくれるから。」



和代さん?……あぁ、さっきの人だね。



「じゃ、じゃあ、私は何をすれば…?」

そう言った途端、私の脳裏にはひとつのベッドに横たわる私と那月さんの姿が思い浮かんだ。
ま、ま、まさか…!
で、でも…夫婦なら当然そういうことも…
そんなことを考えると、恥ずかしくて、顔が火を噴きそうに熱くなって来た。



「……熱でもあるのか?
顔が真っ赤だ。」

「い、いえ…だ、大丈夫です。」

「夫婦として……」



(や、やっぱり、それ!?)



「夫婦として顔を出さねばならない時には、同行してもらう。
だが、その他はなんでも自由だ。
もちろん恋愛もな。
ただし、スキャンダルだけは困る。
バレないようにやってくれ。」

「え……!?」

「なにか不服か?」

「い、いえ…不服なんてことは何も…」



そうだよ。
不服があるはずないよ。
ただ、仮の妻として、必要な時に那月さんに同行するだけで、私はこんな素敵な所に住めて、しかも、家事も何もしなくて良くて、しかも、恋愛まで自由ですと!?
ま、私が恋愛なんてするはずもないけどさ。
……そうだ…那月さんと結婚すれば、もう工場であくせく働くこともないんだ。
家にいて、好きなだけ占いの勉強が出来る!



(それに……)



愛情はないにしても、常に一緒にいてくれる人が出来るんだ。
お母さんが亡くなって、私は天涯孤独の身となってしまった。
それはすごく寂しいことだったから、一緒にいてくれる人が出来るっていうのはとてもありがたい。
しかも、こんなイケメンが…



まさに、miracleだ。
曲がり角で那月さんにぶつかったことで、私の運命は180度変わった。
ひとりぼっちのネット難民だった私が、シンデレラになったんだ。



(でも……)