「……どうかしたのか?」

「い、いえ…ちょっと驚いてしまって…」

私がそう言うと、那月さんはくすりと笑った。



「……だろうな。
うちは変わってるから。
でも、それがうちのルールなんだ。
父上の言うことは、絶対だからな。」

「そう…だったんですか…」



じゃあ、那月さんは10歳の時からずっと頑張って、このタワーマンションとビルやら駐車場を手に入れたってことで…
考えてみれば、20年近く経ってるわけだけど、それにしたって、20年でここまでの生活を手に入れられる人はごくわずかだと思う。
それはやっぱり那月さんが優れてるってことなんだろうな。



「では、ここに……」

「あ、あの…!で、でも、後継ぎがいなかったら困るんじゃ…」

那月さんがまたハンコのことを言いだしたから、私は慌てて話を逸らした。



「その心配はいらない。
兄貴がいるからな。」

「そ、そうなんですか…
で、でも、私みたいな者より、もっと良いお相手はいるのでは?」

「そりゃあいるだろうな。
母上は、常に見合い写真をたくさん持っていた。
だけど…俺は、親のいいなりにはなりたくなかったんだ。」