「あ、あの…」

「持ってきたか?」

「はい…じゃなくて!」

「……どうした?」

私は、目をつぶり大きく深呼吸をする。



「は、ハンコは、お、押せません!」

「……なぜだ!?」

「な、なぜって…だ、だって、私、那月さんにプロポーズされた覚えもありませんし、そもそも会ったのだって、昨日が初めてです。」

「それがそんなに重要なことか?」

「じゅ、重要です!」

「ならば、今言おう。
俺と結婚してくれ。」



な、な、なんだ、この人!?
マジで頭おかしいんじゃないの?



「じゃあ、聞きます!
なぜ、あなたは私と結婚したいんですか!?」

「俺は30までに結婚せねばならない。
だが、結婚したいと思える相手はいない。
ならば、誰だって良い…そう思ったからだ。」



『誰だって良い』?



な、何、この人…!!
私は無性に腹が立って来た。



「誰だって良くて、なぜ私を選んだんですか!?」

「占い師がそう言ったからだ。」

「占い…師が?」

「そうだ…どうやって相手を決めようかと思っていた時、どうせなら思いっきりくだらない手段で選んでやろうと思った。
それで、占い師に視てもらった。
占い師は北東の方向へ行けと言った。
そこで、出会った目立たない年上の女、3、赤、奇跡…占い師はそう言ったんだ。」