「では、ここに印鑑を。」

「は、はい。今、持って来ます。」



いくらなんでもそれほど長引かせることは出来ず、私は婚姻届けを書き終えてしまった。
ハンコを持ってくると言って、部屋に逃げ込み、どうしたものかと頭をひねる。



あまりにもおかしな話だ。
しかも、結婚はこんなに軽々しくするもんじゃない。
第一、私、那月さんにプロポーズされた覚えなんてありませんから。
っていうか、付き合ってもない!
昨日が初対面なんだから。



(どうしよう…!?)



一応、ベランダに出てみる。
下をのぞいてみたら、頭がくらくらした。
100%無理だ。
降りられるような高さじゃない。
じゃあ、ここに立てこもる?
いや…そんなの時間稼ぎにしかならない。



そう…怖いけど、ちゃんと話をして断らないと。
って、なんで婚姻届けを書いちゃったのよ!
私のバカバカバカ!
あの時点で、きっぱり言わなきゃいけなかったのに…
自分の馬鹿さ加減にうんざり…大きなため息がこぼれた。



と、とにかく今からはっきり言おう!



そう決意し、私は再び居間へ向かった。