「あ、あの…ですから、私は…」

「早くしろ。午後からは予定があるんだ!」

「え……」



那月さんの刺すような視線が、私を貫く。
怖いから書かないわけにはいかないけど、まだ納得したわけじゃない。
私はもたもたとわざとゆっくり書き込む。



なんで?
どう考えてもおかしいよね。
結婚っていうのは、基本的には好きな人同士がすることで、私達みたいに会ったばかりで何の恋愛感情もない者同士がすることじゃない。



(あ……)



私は昨日のことを思い出していた。
そうだ…私…那月さんのご両親に紹介された。
あれって、もしかして…



えっ!?
だとしたら、もしかして、以前から那月さんは私のことが好きで…
でも、会ったことなんかあったかな?
いや、ない!
こんなイケメンなんだもの、会ってたら私が忘れるはずがない。
それに、こんな私を密かに好きになるなんて、そんなことがあるはずもない。



だったら、なんで……



(……ま、まさか!?)



私の脳裏に浮かんだのは、サスペンスドラマのような恐ろしいこと…
結婚して、私に多額の保険をかけて、そして私を…



(ひ、ひぃぃぃ~~!)



「……どうした?
顔が青いぞ…」

「い、いえ…別に…」



ないないない。
いくらなんでもそんなことないってば。
だって、那月さんはお金には困ってそうじゃないもん。
う、うん、絶対に大丈夫!



不安を拭い去るために、私はそんなことを自分に言い聞かせた。