「あ…あの…私…その…」

焦ってしまって、言いたいことがまともに言えない。



ふと見れば、エレベーターはどこにも止まらない。
40階に直通のエレベーターだった。
ってことは、那月さんの家はこのマンションの40階ってことか…
逃げ出そうにもそんな高いところから逃げ出せるはずもない。



エレベーターが止まった時に、那月さんを突き飛ばして逃げる…とか…
うまく出来るかな?
でも、その時しか、きっとチャンスはない。



シースルーのエレベーターからは、街の明かりが眩く見えた。
宝石みたいにキラキラ輝いて、とっても綺麗…なんて、そんなこと言ってる場合じゃないんだけど…



耳がつーんとする。
それは、かなり上がってるってことだ。
数分で、エレベーターは止まり…



(せーのっ!)



私は力いっぱい那月さんを突き飛ばした!
……はずだったけど、なぜだか那月さんの体には手が届かず、私は背負ってた荷物の重みもあって、その反動でエレベーターの外へ投げ出され、無様に転ぶ。



「……何やってんだ!?」

「え…あ…荷物が重くて…はは。」

口は荒いけど、那月さんは手を差し伸べて、私を起こしてくれた。
さすがにお育ちの良い方は違う。
私はそれですっかり戦意喪失してしまい、逃げることを諦めた。