でも、泣きもしなければ返事もしない部員が1人いた。
「みんな泣くな……って、みんなじゃないな。おい、颯斗。お前には感動という文字がないのか?」
それは1年の頃からレギュラーに選ばれた。
私と同じ1年の一ノ瀬颯斗(はやと)だった。
「先輩、話長いですよ。早く帰らしてください」
「お前なぁ」
憎まれ口を叩いていても、みんな嫌いじゃない。
だって、本当は仲間思いで凄く優しくて、度がつく程の負けず嫌いだから。
「颯斗は相変わらずだなぁ。先輩、これからも暇な時は部活見に来てくださいね」
部長にそう言ったのは、同じく1年の五十嵐春馬(はるま)だった。
颯斗と違って、先輩への対応が大人というか、後輩らしく先輩を立てる。
「おう、毎日でも行ってやるよ」
「受験勉強してください」
私たちサッカー部はとても仲が良かった。
だから、この生活がずっと続くと思っていた。
この平穏で、楽しい日々が。
だけど、現実はあまりにも残酷で突然だった。
神様は私たちに、いきなり“現実”という名の辛さを与えてきたんだ。