タクシーでおよそ十分の距離の所に水族館はあった。













運転手の人に協力してもらい、颯斗をタクシーから降ろすと私たちは入場券を買って中に入った。












まず目の前にあったのは、小さな魚が泳ぐ少し小さめの水槽だった。












「可愛い!ね、颯斗!」














「ああ、そうだな」















私は颯斗が乗る車椅子を持ちながらその水槽に見入っていた。













水槽の中で泳ぐ小さな魚の背景には、七色の光が差していて幻想的な世界を作り出していた。


















「魚も可愛いけど、後ろの虹色のやつも綺麗だよな」



















「そうだね!こんなの見たことないよ!」
















今までこんなに叫ぶことがあったのだろうかと思うほどに、私はテンションが高かった。


















「優杏。凄く楽しそう」














颯斗にそう言われてやっと気づいた。













私だけ楽しんでいるこんなんじゃ、颯斗は楽しくない。





































「ご、ごめん。私ばっかり楽しんで。颯斗の行きたいとこ行こう!」














今日は颯斗を楽しませるためでもあるんだ。














私が浮かれていちゃいけない。













「優杏が行きたい所で良い」





「え?」














自分の耳を疑った。





“私の行きたい所”だなんて、颯斗はあまり来たくなかったとか?


















私があまりにもワクワクしながら話すから、合わせてくれただけ?




















そう思うと、何だか颯斗に申し訳なくなってきた。

















私が振り回していただけなのかな。















「優杏が楽しそうにしていると、俺も楽しいから。優杏の行きたい所で良い」
















ドキ
















そんなこと、思っていたんだ。


















颯斗の思いがけない言葉に、今度は嬉しくなる。




















私って単純だ。














「優杏。行きたい所どこ?」




















体が動かないから後ろにいる私を見ていないけど、何だか今は颯斗が私のことを見ながら言ってくれているような気がした。





















よく分からないけど。

























「トンネル行きたいんだ。周りに魚がたくさん泳いでいるの」
























この水族館の一番の穴場と言っても良い、水中トンネルカップルが必ず行く絶好のデートスポット。