「若葉...、よくも好き勝手やってくれたな」


ゴキゴキと、流が手の関節を鳴らせる。


流の目は本気だった。



それを見て、若葉は顔が青ざめていくのを自分でも感じたのか、逃げようと流に背を向けるが。


「今更怯えたってしょうがねーんだよ。
男なら、真正面からかかってこい。二度とムギに手だすんじゃねーぞ...っ!!」


ーーバキッ


迫力ある声と、鈍い音が混じって。

流に殴られた勢いで、軽く宙に浮く若葉が、ドサッ...!と地面に、その身を投げる。


口をパクパクさせ、数秒後目を閉じた若葉は
完全に意識を失った。



沈黙と、誰かのため息が私を安心させる。


「......よかった......」


これほどまでに、流が強くて安心したことは、あっただろうか。


人質にされた私のせいで、1度倒した若葉相手に、ここまで追い詰められるなんて。


普段好き勝手やってる流が、始めて相手に自分のペースを乱されて、とてもやりにくかった闘いだったと思う。


でも。



「ムギが無事でよかった」



まだ怖い。

一歩間違えたら、流は負けていたから。


だけど、俯いたまま固まっている私に近づき
そっと抱きしめる流の体温が熱いから、我慢していた涙か一気に溢れ出した。