「...もしも、俺が紬を手放してなかったら。
流、お前はどうしてた?」




少し意地悪な質問を、流に投げかけた圭。


言ったその言葉に、すぐ後悔したのか。
目を伏せては、持っていたペットボトルの中身を一気に飲み干した。





「圭、これだけは言える。
俺はお前が相手になろうが、ムギを奪ってた」




時間を埋める隙さえ与えないくらい、流は迷いのない言葉で、圭に告げる。




滴が、水溜まりに落ちたときに出来る波動の様に。瞳が揺れた。




愛って難しいね。


ねえ、胸が痛いよ。



流はどうしてこんなにも、真っ直ぐで純粋に。私の心を熱くさせるんだろうか。



そんなのってズルいよ。





「ハッ...女に依存するなんて、あの好き勝手やってた頃の神庭流はどこいったんだよ...情けねえ」




互いの言葉がくさい台詞で出来ていることに、圭はちょっとだけ笑った。




こんなにも、清々しい圭を見るのは初めてだ。




諦めたというよりは、流の気持ちを優先してあげようと。自分の気持ちを抑えたのかもしれない。




自分勝手で、出したい欲は隠さず吐き出してたあの頃の圭とは違って。


今じゃあ、1人の人を大切に出来る...そんな優しい男になっている。




あの頃の圭が今の圭なら、もっと惚れていたかもしれない。




でもやっぱり。そんな圭から流が私を奪いにくることを想像しては、夢うつつ。




私、流に出会えてよかった。