「流...!テメェ相談もなしに辞めるとか、勝手なこと言ってんじゃねーよ!!」



息を荒らげ、強く拳を握っている圭の目は、まるで流を敵視している様にも見える。



こんな圭、見たくなかった。



流を慕っている圭の気持ちは、今にも壊れそうで。
そしてその事の発端は自分にあるものだと...今目の前にして、やっと現実を自覚するの。





怒鳴り声を上げた圭の3歩手前で。
首を何回も回し、骨をゴキゴキと鳴らせる流は、少しの休憩を挟みながらも、気は緩めない。




私が来る前に、既に殴り合いを始めていた2人の拳が、またしても交差する。




長い手、長い足を器用に使いこなし。蹴りを交わしながら、向かってくる拳を手で受け止める。


どちらも1歩も引かない喧嘩だった。




この喧嘩を止めるために、ここへ来たはずなのに。

少しの隙間すら作ろうとしない、流と圭の空間に。
圧倒され、息を呑んで見守ることしか出来ないなんて...。




情けなかった。
いつも強気な自分が、大切な人が傷ついている姿を見てるだけの、ただの臆病者だったとは。




泣きたくないのに。
自らの涙で目の中が染みてしまうほど、視界が痛かった。