見覚えのある道が目に映る度、夜季の倉庫に近づいていることが分かり、不安は募る一方。
人気の少ない山の麓まで私を乗せて走ってきた山崎君のバイクの音が、嫌味なほどうるさく聞こえるのはなんでだろう。
都会から離れてしまった山道は、道路にまで草が生い茂っていて、自然の匂いが私たち二人を翻弄(ほんろう)しているみたいだ。
「...紬ちゃん、泣くのはまだ早いと思うけど」
バイクの音で掻き消される予定だったはずの、鼻をすする音が、前に居る山崎君には聞こえていたみたいで。
いつも...気が強い自分しか見せてこなかった相手だから
ちょっとだけ、情けなくなる。
でも。
「神庭は、誰がなんと言おうと夜季の総長なんだから...。
例え何があっても、神庭が強いことに変わりはないんだから...紬ちゃんが不安になること、ないと思う。」
いつも冷たい山崎君から、慰めの言葉が出てくるなんて。
思えば私たち二人の関係って、あんまりいい思い出ないよね。
相性最悪だし。
だけど...
「ありがとう...山崎くん」
顔を合わせていないせいかな?
それともさっきまで、流れている雲に隠れたりひょっこりと現れたりを繰り返している夕日が、私に向かって光を注いでいるせいかな。
気を張っていた相手にでも素直になれることに、ちょっとだけ...心が救われたような気がしたんだ。