正直なところ、不安だった。

私は、記憶が曖昧すぎる。
仕事のことだけじゃない、ほとんどの人の顔と名前が一致しない。
接客業において致命的である。

勿論、恩師やよくお見舞いに来てくれた先輩たちのことは覚えてるけども
それ以外のほとんどのひとの名前がどうしても思い出せないのだ。


それでも、戻ってこい、と再雇用制度を使って引き戻してくれたこの会社に恩を返す為に私はまたもう一度、0からはじめていかなくてはいけない。
そう決意して、総務へと繋がる非常階段の重い鉄扉を押した。