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「いってきまーす」


私は元気よくママに挨拶をしてから、玄関を飛び出す。

卒業式が終わり、私は今日から社会人になりました。

ママは大学に行って欲しかったみたいだけど、私はこれ以上ママに負担をかけてくないと思い就職を選んだんだ。

私は紺のスーツに白いブラウス、そしてパンプスを履き桜並木の下を歩く。

二年前の今日、ここで瀬良先生に出会った。

寝転んでいた瀬良先生の足に私がつまづいて…

「きゃっ!!」

私は何かにつまづいてコケそうになった。

そう、ちょうどこんな風に二年前も…

まさかーーー

振り返った私は心臓が止まりそうになる。



「…うそ、、、なんで…」



私は今、目の前にいる人を信じられない気持ちで見上げる。

どうして………



「久しぶり、だな」




ずっと聞きたかった私の大好きな声。

ずっと、ずっと、ずっと、会いたかった人。





「瀬良先生っ」





私は思わず目の前にいる人に抱きついた。

ぎゅっと抱きしめ返してくれる瀬良先生。

「ずっと、ずっと会いたかったんだよっ。どうして急に居なくなっちゃったのよっ」

私は泣きながら、瀬良先生の背中をポカポカと叩いた。

「…ごめん、本当にごめんな。」

瀬良先生は苦しそうな声で何度も私に謝る。

「あの時は、ああするのが一番いいと思ったんだ。お前が幸せになれる方法だと」

「どうして、そう思ったの?私、瀬良先生が居ない毎日は全然幸せなんかじゃなかった。ずっと寂しくて苦しくてっ…」

私は涙をボロボロと流しながら、瀬良先生を見上げる。

瀬良先生は、あの大きな手で優しく私の涙を拭ってくれた。

「…あの時、俺はお前を完璧に守りきることができなかった。そんな男がお前の側にいちゃいけないと思った」

何言ってるの?

瀬良先生には、いつも助けられっぱなしで感謝しかないのに。

「瀬良先生は、ずっと私のことを守ってくれたよっ」

「それだけじゃない。俺は…、施設出身だ。親もいねーし、借金もあった。そんなマイナスだらけの男と付き合ったって上手くいくわけねーだろ?」

「そんなの勝手に決めないでっ。それに何っ、施設出身だとか親が居ないとか。卑屈になるなって私に教えてくれたのは瀬良先生でしょっ。そんな瀬良先生が卑屈になんてなっちゃダメじないっ」

「….藤崎」

「私はっ、瀬良先生の正直な気持ちだけを知りたいっ」

私は瀬良先生のシャツをぎゅっと握って、真っ直ぐに見つめる。

「…俺は、、、潔くお前から身を引いて、もう会わないつもりでいた。でも、ずっとお前のことが頭から離れなくて…会いたくて、会いたくて…頭がおかしくなりそうだった。初めてお前と出会ったこの桜並木に来れば会えるかも知れないと思ったんだ」

瀬良先生も目を逸らさず、真っ直ぐに私を見つめてくれる。

「…瀬良先生」

嬉しくて、嬉しくて、涙が止めどなく流れた。

「今から身勝手なことを言うけど…聞いて欲しい」

瀬良先生から緊張が伝わってくる。






「陽菜のことが好きだ」





満開の桜の下、二人の影がそっと重なった。






* END *