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お昼休みに入り、私と杏里は瀬良先生に話しを聞くため、急いで保健室へ向かう。

ドアに手を掛けて、勢いよく開けようとしたが鍵がかかっていた。

「……瀬良先生、、どこに行ったんだろ?」

私と杏里が保健室を除いていると、

「瀬良先生は居ないわよ」

エキゾチックな香りと共に声が聞こえた。

「雨宮、先生…。瀬良先生はどこへ行ったんですか?」

本当はこの人とは話したくないけど、雨宮先生だったら同じ教師だから瀬良先生の居場所を知っているかもしれないと思った。

「もう、荷物をまとめて学校を出たわよ。あなた彼女なのに、何も知らないのね」

真っ赤なマニキュアをした指を口に当て「クスッ」とバカにしたように笑う雨宮先生。

「ちょっと!なによっ、その言い方っ!!」

今にも雨宮先生に掴みかかりそうな勢いで、杏里が身を乗り出す。

「杏里、やめてっ」

私は杏里の腕をぎゅっと抱きしめて止めた。

ここで雨宮先生に手を出してしまったら、相手の思うツボ。

落ち着いて…

大丈夫。

ちゃんと対応できる。

「なにも知らないってどういうことですか?」

私は雨宮先生に対し、出来るだけ冷静な態度で質問をした。

「いいわ、教えてあげる。あなた前に瀬良先生と同居してたでしょ。その時の写真が校長にFAXされてきたのよ。保護を目的に同居してたらしいけど、教師として行き過ぎた行動だということで、転勤って処分が決まったのよ」

「…う、そ」

「嘘じゃないわ。あなたのせいで、瀬良先生は他校に飛ばされたのよ」

「ザマーミロよ」と高々に笑いながら雨宮先生はどこかへ行ってしまった。

瀬良先生が私のせいで、他校に飛ばされてしまった?

瀬良先生は私は関係ないって…

ただの転勤だって…言ったのに。

どうして、嘘をついたの?

ーーー私に被害が及ばないようにしたってこと?

「私っ、瀬良先生の家に行ってくるっ!」

なぜか、今すぐに瀬良先生に会いに行かなきゃ後悔するような気がした。

「私も行くよっ」と杏里が言ってくれたので、私達は一緒に瀬良先生の家に行くことする。

全力疾走で駅まで行き電車に飛び乗った。

車窓から見える景色が私の記憶を蘇らせる。

瀬良先生との同居生活は、私にとってかけがえの無いものとなった。

一緒に食べる楽しい食事に、安心して眠れるベッド。

瀬良先生の学校では見せないプライベートの姿。

そういえば、焦げた魚を一緒に食べたこともあったな。

苦かったけど、瀬良先生が私のために作ってくれたんだと思ったら、胸がいっぱいになって…とても幸せな気持ちになった。

お酒に酔って帰ってきた時もあったな。

あの時は…瀬良先生の過去を知って、私がこの人を側で守りたいと思ったんだ。

ママのことも…

瀬良先生のお陰でママの気持ちを知って、元の関係にも戻れた。

瀬良先生を好きになって、瀬良先生の言葉に一喜一憂して…。

やっと、心が通じあったと思ったのに、こんなことになってしまって…。

目頭が熱くなり、涙が出そうになるのを我慢しながら電車を降りた。

また、瀬良先生の家まで全力疾走する。

マンションに着きエレベーターに乗り、瀬良先生の家の前まで着いた。

ドキドキとする胸を押さえつつインターホンを鳴らす。

瀬良先生が出てきたら、まずは何て言おう…

どうして嘘をついたのか、どうして私のことを遊びだと言ったのか、色んなことが聞きたくて頭の中がグチャグチャになる。

なんでもいいっ。

瀬良先生に会いたいっ。

しばらくすると、ガチャッと玄関のドアが開いた。

「瀬良先生っ!」

やっと瀬良先生に会えると思いながら叫んだ言葉は、見事に裏切られる。





「……リュウ、さん」





私の目の前に立っていたのは、今、会いたいと思っている人ではなかった。

「お久し振りです。藤崎さん」

いつもの優しい笑顔ではなく、寂しそうな笑顔で挨拶をするリュウさん。

「…瀬良、先生は?」

まさか…そんな事は無いよね?

「残念ながら雄大は、ここに居ません」

私はリュウさんの横をすり抜けて玄関に入り、リビングのドアを勢いよく開けた。

そこには、瀬良先生の姿だけではなく、家具もカーテンも何もかもが無くなっていてーーー

私は脚の力が一気に抜け、ストンッと床に座った。

「どういう…こと?瀬良先生はどこに行ったの?」

私が震える両手で口を押さえ、愕然としながら何も無くなってしまったリビングを見ていると、リュウさんが私の隣にしゃがみ込む。

そしてーーー

「雄大は、もう、ここには戻ってきません」

リュウさんの言葉が頭の中を何度もリピートする。

ここには、もう、戻ってこない?

…………嘘でしょ?

瀬良先生にもう会えないの?

そうだっ、リュウさんなら絶対に瀬良先生の居場所を知ってるはずだっ。

「リュウさんっ、瀬良先生の居場所を教えてっ」

私はリュウさんの手をギュッと握り懇願する。

でも、リュウさんから帰ってきた言葉は、私が期待していた言葉ではなかった。

「…申し訳ありません、お教えすることは…出来ません」

「どうしてっ、リュウさんは知っているんでしょっ」

「雄大に絶対に言うなと口止めされてますので…」

リュウさんは眉を下げ、とても申し訳無さそうな顔で言った。

「リュウさんっ、お願いっ」

私は涙をボロボロと流しながら、リュウさんにお願いする。

でも、やっぱり返ってくる言葉は「申し訳ありません」の一言だけだった。

「…嫌、だ、、、」

ひどいっ!

まだ、何も瀬良先生に聞けてないのにっ!

勝手に一人で責任感じて、一人で決めて、勝手に私の前から居なくなってーーー。

まだっ、こんなに好きなのにっ!

好きで、好きで、大好きでっ!!

瀬良先生のことしか見えないのにっ!

勝手に私の前から居なくならないでよっ!!




「うわぁぁぁぁぁーーーーーっっ」




私は床に突っ伏して、今までに無いくらいの大声で泣き叫んだ。