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まさか、藤崎があんなことを言うなんて思っていなかった。



『…瀬良先生なら、いいよ』




だなんて…

おい、おい、俺の理性をぶっ飛ばす気かよ。

はぁぁぁ…あの時はマジでヤバかった。

藤崎はただでさえ色気がダダ漏れてんのに、その上あんなこと言われたら、普通の男なら我慢出来てねーぞ。

俺ってマジで偉いっ。

よく我慢したっ。

なんて、保健室でひとり自分を称えていると、

コンコンッとドアがノックされ、ゆっくりと開けられた。

ドアの向こうから顔を見せたのは、雨宮先生だった。

今日も相変わらず、身体のラインがバッチリ見える服を着ている。

余程の自信があるんだな、この女。

まぁ、実際にいい身体してっけど。

「どうかされましたか?雨宮先生」

俺はいつも通り仕事モードで彼女に話し掛ける。

「…いえ、授業がない時間なので瀬良先生に会いにきました」

そう言ってドアを閉め、カチャンと鍵までかけて入ってきた。

「体調不良の生徒がいつ来るか分からないので、鍵は開けておいてくださいね」

俺はニッコリと営業スマイルをしながら、ドアの鍵を開けようとしたが、雨宮先生の真っ赤なマニキュアが塗られた手に止められた。

「今晩、お食事に行きませんか?」

雨宮先生が上目遣いで指を絡めながら言う。

「すみません。今日は都合が悪くて」

絡められた指を外しながら、俺は営業スマイルで答えた。

「お飼いになってる猫は出て行ってしまって居ないって言ってましたよね?お家に早く帰らなくてはいけない理由は無いんじゃないですか?」

そういえば、藤崎のことを猫に言い換えてたんだっけ。

「その猫、また帰って来たんですよ。前より俺に懐いちゃって、メスだから俺が他の女の人にかまってるとヤキモチ妬いちゃうんですよね」

猫に扮した藤崎を想像してククッと笑ってしまった。

「….私はその猫より劣ってるということですか?」

少しムッとしたのか、雨宮先生の眉間に皺が寄る。

「はは…」

面倒臭くなった俺は、苦笑いをしながら椅子に座り、PCを開けカタカタと仕事を始めた。

すると、タイピングしている俺の手の上に、真っ赤なマニキュアの手がそっと置かれる。

見上げると雨宮先生の顔が目の前にあり、いきなり唇が近づいてきた。

俺は素早く手で自分の口を覆い、雨宮先生のキスを回避する。

「なぜ、避けるんですか?」

雨宮先生は大人の色気を漂わせながら、熱を帯びた目で俺を見つめてきた。

なぜ、避けるかって?

お前みたいな香水くせぇ女が嫌いなんだよ。

はぁ…、職場では余り揉め事は起こしたくねーんだけど…

俺はそっと雨宮先生との距離を取り、営業スマイルを作る。

「俺、彼女がいるんで」

雨宮先生の顔が、一気に険しいものへと変わった。

「あんな小娘のどこがいいのっ!この私を振ったこと後悔するわよっ!」

そう叫んだかと思うと、勢いよくドアを開閉し保健室を出ていった雨宮先生。

おい、おい、随分とヒステリックな女だな。

しかも、プライド高すぎじゃね?

お前、どんだけいい女のつもりなんだよ。

言っとくけど、俺の子猫ちゃんの方がよっぽどいい女だぞ。

ーーーそれにしても、あの女、、

俺と藤崎が付き合ってることを知ってるみたいな言い方だったな。

どっから漏れた?

藤崎の友達から漏れることはなさそうだし…

どこかから見られてた?

いや、そんな気配は無かった。

少し様子を見てみるか。



この後、まさかあの女が、あんな行動に出るとは思っていなかったんだ。