*****


翌朝、カーテンの隙間から溢れる光で朝が来たのだと気付く。

昨夜は一睡も出来なかった。

あのとき、瀬良先生から香ってきたエキゾチックな香り。

雨宮先生からいつも香ってくる香りと同じだった。

移り香するくらい、あの二人は密着した状況があったんだと思うと、胸が苦しくなって涙が止まらなかった。

結局、瀬良先生には雨宮先生みたいな大人の女性が合ってるし、そんな女性の方が瀬良先生も好きなんだ。

…………諦めよう。

こんなに苦しい想いは、もうしたくない。

疲れちゃったよ、私。

きっと、牧野くんと付き合った方がいいんだ。

私のことを好きだと言って、大切にしてくれる人の側にいる方が楽でいい。

もう、何も考えないで流れに身を任せよう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー

そう思って家を出てきたのに、、、

「何してるんですか?こんなところで」

早朝の校門前で、瀬良先生が壁にもたれ誰かを待っていた。

「何って…お前を待ってたんだよ」

「は?意味がわかりません」

私は瀬良先生を無視して横を通り過ぎようとした。

「待てよ」

そう言って瀬良先生は、私の腕を掴み引き止める。

「離して下さい、朝練の準備に遅れます」

私は瀬良先生の方を一切見ずに手を振り払った。

「包帯を変えるから、保健室まで来いよ」

「結構です」

「これは、命令。保健室へ来なさい」

そう言った瀬良先生は、有無を言わさず私を保健室へ連れて行った。

保健室に入った私は瀬良先生と向かい合わせに座らされ、今、包帯をスルスルと解かれている。

「結構、深い傷だったけど縫わなくて済んで良かったよ」

手の甲の傷口を見て、溜息を吐きながら言った。

「瀬良先生には関係ないです」

どうせ、仕事だからそんなこと言ってるんでしょ?

本当は、心配なんてしてないくせに。

「可愛くねー女」

「別に瀬良先生に可愛いとか思われなくてもいいですから」

「なに?牧野に可愛いと思われたらそれでいいって?」

意地悪に笑いながら、包帯を器用に巻いていく瀬良先生。

何よっそれっ。

なんで瀬良先生にそんなこと言われなきゃいけないのよっ。

「そうですね、私、牧野くんと付き合おうと思うので、牧野くんにだけ可愛いと思われたいです」

包帯を巻き終わった瀬良先生の手が、ピタッと止まる。

「それ、本気で言ってんの?」

そう言って、冷たい視線を私に向けてくる瀬良先生。

「ほ、本気ですけど」

私はそんな瀬良先生が、少し怖くて声が吃ってしまう。

いつもと違う雰囲気の瀬良先生に、落ち着かなくなった私はここを出ようと席を立った。

その瞬間、パシッと手首を掴まれ、グッと力強く引き寄せられる。

トンッと瀬良先生の硬い胸に頬が当たり、逞しい腕の中に閉じ込められた。

「なっ//////⁈は、離してっ」

私は瀬良先生の思いもよらない行動に動揺して、腕の中で子供のようにジタバタとする。

「絶対に離さねーから、諦めて大人しくしろ」

どうして?

どうしてこんな事するの?

私のことは生徒にしか見れないんでしょ?

なのに、なんで抱きしめたりなんかするの?

もう、頭の中がグチャグチャで訳がわからないよ…

「…やめて。離して」

これ以上、私の心をかき乱さないでよ。

やっと、牧野くんと付き合おうって思えるようになったんだから。

私は、瀬良先生の胸に両手を当てて力一杯に押した。

でも、固く結ばれた瀬良先生の手は外れなくて、私は彼の腕の中から抜け出すことが出来ない。

「行くなよ…」

瀬良先生の苦しそうな掠れた声が聞こえた。

初めて聞いた弱々しい瀬良先生の声に不安になった私は彼を見上げる。

私と目が合った瀬良先生は、本当に苦しそうな表情をしてこう言ったんだ…




「お前のことが好きだ」




嬉しくて、夢みたいで…

大粒の涙が次から次へとこぼれ落ちていく。