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救急箱を持って体育館へ着くと、部員達が黄色い声援に囲まれながら紅白戦をしていた。

もちろん、黄色い声援は牧野くんだけに向けられている。

この状況でよく集中してバスケが出来るなぁと思いながら、私は救急箱を置き、得点板係をしている部員のところへ行った。

「代わります」

「えっ///藤崎先輩に得点板任せると、先輩方に怒られますっ」

なぜか、真っ赤な顔で拒否してくる一年生。

「私に任せて、あなたは試合に参加して下さい。皆んなには私が説明しますから」

「い、いや、でも///」

そんな遣り取りをしていて、ボールを見ていなかったのが悪かった。

リバウンドで弾かれたボールが勢いよく得点板に当たり、私の方へ倒れてくる。

ガシャンッと大きな音を立てて倒れた得点板が、私の手の甲をザックリと切った。

ポタポタと床に赤い血が落ちる。

「藤崎さんっ!!」

一番に駆け寄ってきたのは牧野くんだった。

ザワザワと体育館内が騒めき出す。

私はとりあえず、手を心臓より上に挙げてから、青くなって固まっている一年生に、

「大丈夫だから、心配しないで下さい。申し訳ないけど、得点係は宜しくお願いします」

とニコッと笑ってから、救急箱から包帯を出し適当にグルグル巻いて止血をした。

「藤崎さんを保健室へ連れて行ってくるから、皆んなはそのまま続けてっ」

牧野くんが部員に指示を出し、私を抱き上げようとするが私はそれを拒む。

「大丈夫っ!私はひとりで保健室に行けますっ」

「心配だからついて行くよっ」

そんな遣り取りをしていると、

「なに騒いでんだー?」

と体育館の入り口から声が聞こえてきて、白衣姿の瀬良先生が現れた。

私の手を見て瀬良先生の表情が険しいものへと変わる。

「何やってんだお前はっ!バカかっ!」

そう言って、有無を言わさず私を抱きかかえた瀬良先生。

「ちょっ⁈降ろしてよっ」

「黙ってろっ!」

瀬良先生が凄く怖い顔で私を見下ろしたので、私は迫力に負けて押し黙る。

「今から藤崎を病院に連れて行ってくる。牧野は顧問に報告しとけっ」

そう指示を出してから、私を抱えたまま体育館を急いで出て行った。

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瀬良先生の車で病院に行って治療を受けたが、幸い思ったより傷は浅かったため縫うなどの処置は必要なく、傷口を洗い透明なテープを貼り包帯を巻くくらいで済んだ。

学校へ戻ってきた私は、瀬良先生と一緒に職員室へ行き、顧問の先生に状況説明をして家に帰ることになった。

職員室を出て昇降口まで来たとき、

「車で送るからここで待ってろ」

と瀬良先生が真顔のままで言う。

そんな瀬良先生が、なんだか少し怖くて…

「一人で帰れます」

なんて意地を張って言ってしまった。

本当は…

いっぱい血が出て怖かったし、泣いて取り乱すのを必死に堪えてたんだ。

縫うこともなく思ったより浅い傷で良かったけど、今はまだやっぱり不安で……

「お前、まだその性格なおらねーのかよ。少しは大人を頼れよ」

「………………」

瀬良先生には、何もかも見透かされているようで何も言えなくなった。

「大人しくここで待ってろよ、いーな」

そう言って私をビシッと指差してから、瀬良先生はどこかへ走って行く。

しばらくして、白衣を脱いで鞄を持った瀬良先生が戻ってきた。

「じゃ、帰るぞ」

「……は、い」

私は大人しく瀬良先生の指示に従うことにした。

久しぶりに乗る瀬良先生の車。

初めて乗ったのは、アイツに待ち伏せされて襲われたときだった。

瀬良先生が助けに来てくれて……

あの時は今よりずっと二人の距離は近かった。

きっと実ることのない恋だから、自分の中にそっとしまっておこうと思っていたのに…



《瀬良先生の特別になりたい》



そんな気持ちが大きくなっていって、瀬良先生の優しさにも期待してしまって…

私って馬鹿だな。

………………告白しなければ良かったのに。

こんなに状況になるなら、告白なんてしないで普通の生徒のまま瀬良先生の近くにいれば良かった。

後悔ばかりが残り、私はまだ瀬良先生のことが好きなんだと実感する。

……早く諦めなきゃ。

「藤崎、着いたぞ」

そう言って、瀬良先生は車を停めてヘッドライトを落とした。

「…ありがとうございました」

私は軽く頭を下げてお礼を言ってから、ドアノブに手を掛ける。

「…イタッ」

無意識に怪我をしている左手で開けようとしたため、ビリっと痛みが走った。

「バカ、じっとしてろ」

そう言って運転席から身を乗り出し、助手席側のドアノブに手を掛けた瀬良先生。

ち、近いっ//////

私の心臓がドクンッとなったとき、フワッと瀬良先生からエキゾチックな香りがした。

この香り……………

覚えがある。

だって、この香りはーーーー

「雨宮…先生」

「は?」

「瀬良先生から雨宮先生の香りがします」

服に移り香するくらいに、瀬良先生と雨宮先生は密着していたんだ。

「最低…ですね」

私はその一言だけ言って車から降り、振り返ることもなく走って家に帰った。