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私は瀬良先生から逃げるようにして図書室へ駆け込んだ。

幸いこの時間は誰も図書室に居なかったので、私は本棚の陰に隠れて床に座り込む。

抱えた膝に額を当てて世界を閉ざし、自分の殻に閉じこもった。

「もう…やだ」

我慢していた涙が零れ、スカートの色を変えていく。

告白なんてしなければ良かった…

なぜ、あの時「すき」だなんて言ってしまったんだろう。

自分の心の中にしまっておけば、瀬良先生とこんな感じにならなくて済んだのに…。

私のバカ…。



「…藤崎さん」




声を掛けられたが、私は膝に額を当てたまま顔を上げなかった。

だって、上げなくても牧野くんだって分かったから。

牧野くんは私の隣にそっと静かに座り「大丈夫?」と優しく声を掛けてくれる。

どうして、この人はフラれた相手にこんなに優しく出来るんだろう?

私なんて…瀬良先生に感情的になってばかりなのに…。

「…ゴメンね。僕が保健室の前なんかで告白しちゃったから、瀬良先生とこんな感じになっちゃったんだよね?しかも、変な提案までしてしまって…」

「…違うよ。牧野くんの所為じゃないよ」

そう言って私が顔を上げると、牧野くんも私と同じように抱えた膝に額をのせ、こちらを見ていた。

肩が触れるくらいの距離に座っていたため、思ったより牧野くんの顔が近くてドキッとなる。

「なんだか、今が一番、本当の藤崎さんに触れてる感じがする」

とニッコリと笑って言った。

そういえば、さっき私…敬語を使うの忘れてた。

「気のせいですよ///」

「あ、また敬語に戻った。ダメだよ、今から僕に敬語は禁止だからね」

「わかった?」と牧野くんは私の頭の上に軽く手を当てる。

これまで牧野くんに関わりたくないと思っていたけど、今は不思議とこの空間が嫌じゃないと思ってる私がいた。

「…わ、かった///」

そう答えると、「ありがとう」と牧野くんはいつもの爽やかな笑顔を私に向ける。

「ねぇ…どうして、牧野くんはそんなに優しいの?」

私は真っ直ぐに牧野くんの目を見て聞いてみた。

「え?」

予想外のことを聞かれたのか、少し驚いたように目を丸くした牧野くん。

「…私、牧野くんの気持ちに応えられなかったのに、、、どうして優しくしてくれるの?」

「僕は…全然優しくなんてないよ。だって、瀬良先生の言う通りだから…」

「どういうこと?」

「どういった形であれ藤崎さんの側に居たいっていうのも、他の男が近づかないようにっていうのも、全部、瀬良先生の言った通りなんだ。
下心ありありなんだよ僕は」

「…あはは、それって自分で言っちゃったらダメなんじゃないの?牧野くんって正直者なんだね」

自分で全部バラしてしまう牧野くんが、なんだか可笑しくって、私は声に出して笑った。

「……か、わいい///」

「え?なに?」

「笑った藤崎さんは、とても可愛いよ///」

肩が触れそうなくらいの距離に隣同士で座っているため、牧野くんの顔がとても近くて私の心臓がドキドキと音を立てる。

「…ばか///」

「照れてる藤崎さんも可愛い」

「もう、恥ずかしいからやめて///」

私はニコニコしてこっちを見ている牧野くんをキッと睨む。

「怒ってる藤さ…モゴモゴ」

また、照れるような事を言い出したので、私は牧野くんの口を両手で覆った。

一度目を大きく見開いた牧野くんは、そのあと黙ったまま私を真っ直ぐに見つめる。

次第に牧野くんの視線が熱を帯びていき、大きな手が私の後頭部に当てられた。

そして、グッと引き寄せられ……

牧野くんとの距離がゼロになる。

牧野くんの口を押さえた私の手の甲に、自分の唇が触れた。

閉じられていた牧野くんの目がゆっくりと開けられて、私の後頭部から手を離す。

元の距離に戻った牧野くんは、私をじっと見つめて言った。



「やっぱり、藤崎さんのこと諦められない。

僕が瀬良先生のことを忘れさせてあげる」