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「離してよっ!!」



普段はあまり大声を出さない藤崎が、大きな声を出し俺の手を振り解いた。



「そうやって、好きでもないのに私に触れないでっ」


大きな目に涙を溜めながら言った藤崎は、俺から逃げるようにどこかへ走って行く。

牧野は迷い無く直ぐに藤崎を追いかけたけど、俺の足は色んな想いが足かせとなり、藤崎を追いかけることは出来なかった。

だって、そうだろ?

俺は教師なんだ。

自分の気持ちだけで簡単に動くわけにはいかねーよ。

牧野のように、自分の気持ちに正直に行動できたらどんなにいいかと思う。

俺だって何も考えずに追いかけて、藤崎を抱きしめたい。

気持ちに応えてやりたい。

でも………な、やっぱ簡単じゃねーんだよ。

俺が教師でなかったら…

俺が施設出身じゃなく、普通の家庭に生まれていたら…

奨学金という借金が無かったら…

………なんて思ったら、足が鉛のように重たくなって、情けねーけどこの場を動けなくなった。

このとき俺は、牧野の方が藤崎を幸せにできるんじゃねーかと思ってしまったんだ。