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夕食を食べ終わった私は、瀬良先生の家のキッチンで洗い物をしていた。

ママ、私が居なくなって心配してるかな?

…………ううん、私が家を出たことさえ気付いていないかも。

でも、私は本当にこのまま瀬良先生に甘えていていいのかな?

なんて考えていると、

「わりーな、後片付けさせて」

キッチンに入ってきた瀬良先生が、冷蔵庫からビールを取り出しながら言った。

「あ、の…瀬良先生」

「ん?」

「私、やっぱりネカフェに行きます」

「は?何言ってんの?お前の家は、今日からしばらくの間はココ。わかった?」

「いや、でも…」

「でももクソもねーの。俺が決めたんだから、これは決定事項なんだよ」

そう言って、瀬良先生はカシュ…とビールを開けて一口飲んだ。

「…強引だな///」

「それ、俺の特技だから」

ニカッと笑って私の髪をクシャクシャッとしてから、リュウさんの所へビールを持って行った。

…ホント、強引な人だな///

でも、、、嬉しい。

私はここに居ていいんだ。

正直、行く宛がなかった私はホッと胸を撫で下ろした。

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「……寝てる?」

洗い物が終わり私がリビングに戻ると、ソファに瀬良先生がスースーと寝息をかきながら横たわっていた。

「呑んでる途中で、急に電池が切れてしまったようです」

リュウさんが瀬良先生の足元にジャケットを掛けながら言う。

「私のせいで疲れちゃったんですね…」

「それは違いますよ。雄大は貴方を守ることが出来て安心したんだと思います」

リュウさんが優しく微笑みながら言った。

「座ってお話ししませんか?」と言われて、私は瀬良先生を起こさないように静かに座る。

「雄大は口は悪いけど信用できる男ですよ。彼なりに貴方のことを助けようと必死になっています。難しいかも知れませんが、彼のこと頼ってあげて下さい」

リュウさんの言葉は、とても柔らかな口調のせいかスッと私の心に届く。

「…はい///」

「ありがとうございます。きっと、雄大は藤崎さんのことを救ってくれますよ」

「あの…、瀬良先生はどうして私の事を助けてくれたんですか?」

「雄大は先生ですからね」

「でも…普通だったら、ここまでしてくれないかと…。現に今までそんな先生に私は会ったことがありません」

「そうですね…。一言で言えば、恩師との約束ですかね」

「…どういう意味ですか?」

「また、直接本人に聞いてみて下さい」

リュウさんはニッコリと笑って交わした。

そりゃ、そうだよね。

友達のことを勝手に喋るなんて事、出来ないよね?

「…そうします」

「藤崎さんは、とても賢くて良い子ですね」

リュウさんは私の頭の上に、そっと手を乗せて言った。

「そ、そんな事ないですっ。リュ、リュウさんはっ女性慣れしてますよねっ///」

恥ずかしくて顔が熱いよっ。

「あはは、その反応、とても可愛いですね」

「からかわないで下さい///」

リュウさんは「あはは」と笑ってから、ビールを一口飲んだ。

「僕も藤崎さんに信用してもらいたいので、きちんと自己紹介させていただいても良いですか?」

「え?」

「後からバレるような事になりたくないので、今、僕からお話しさせて下さい」

少し困ったように眉を下げて笑ったリュウさん。

私は「…はい」と答えて、リュウさんの言葉を待った。

「実は、僕、神部組の三代目なんです。分かりやすく言えば、ヤクザですね」

………え?

こんな優しそうな人が、ヤクザ⁇

全然、そんな風に見えない。

リュウさんの突然の告白に、考えがまとまらず黙っていると

「やはり、ヤクザと知り合いだなんて嫌ですよね。遅い時間ですし、帰りますね」

リュウさんは、申し訳なさそうに笑いながら立ち上がった。

「待って下さいっ」

私は慌てて立ち上がって、リュウさんの腕を掴み引き止める。

「藤崎さん?」

リュウさんは少し驚いた顔で私を見た。

「リュウさんの事、全然嫌なんかじゃありませんっ。リュウさんは、とても友達想いの優しい人ですっ」

あんなに優しく微笑んだり、話してくれるリュウさんに嫌な気持ちなんて持つわけないよっ。

「ありがとうございます。藤崎さんは優しいですね」

「そ、そんなことっ無いです///」

「僕の場合は、怖がられるのが当たり前なので、藤崎さんの言葉はとても嬉しかったです。ありがとうございます」

そう言って優しく微笑んだリュウさんは、私の頬にそっとキスをした。

「☆☆☆っ⁈///」

「感謝の印です」とクスッと笑って帰っていった。

私は頬に手を当てて、力無く床にペタンと座る。

キ、キス…されちゃった///

やっぱり、リュウさんって女慣れしてるっ‼︎

フェロモンが半端ないしっ。

しかも、いい香りがするしっ。

「なにキスなんてされてるんだよ、バーカ」

ソファで寝ていたはずの瀬良先生が、ムクッと起きて私にデコピンをした。

「痛いじゃないですかっ」

「痛くしてるんだから当たり前だろ?」

「どうしてデコピンなんてするんですかっ」

「お前がバカだから」

「意味がわかりませんけどっ」

「俺が寝てる間に何やってんの?」

「瀬良先生が勝手に寝て、リュウさんが勝手にキッ…キスしたんじゃないですか///」

「ホントお前って危なっかしい奴だな」

「何がですかっ」

「わからないならいーよ」

全く意味がわからないんですけどっ!

納得がいかなくて、私がぷぅと頬を膨らませていると、

「…さんきゅ、な」

少し照れたように言った瀬良先生。

「え?」

「リュウの事…素性を知った上で、受け入れてくれて、ありがとう」

「べ、別にお礼を言われることなんて有りません。お礼なら私が瀬良先生に言わないと…」

私は正座をしてから、瀬良先生を真っ直ぐに見る。

「今日は助けてくれて、ありがとうございました」

「プハッ、素直なお前ってなんか調子が狂うな」

「なっ///せっかくお礼を言ったのに…」

な、なによ。

恥ずかしいけど、すごく感謝してるから素直にお礼を言ったのにさ。

「冗談だよ。お前が無事で本当に良かった」

瀬良先生が私の頭にそっと手を乗せて、優しく微笑んだ。

…トクンッ、トクンッ、トクンッと心臓が早くなっていく。

な、なにコレ///⁇

なんか急にドキドキしてきたっ。

リュウさんの時は、こんなにドキドキしなかったのに。

「…どうした?」

固まったまま動かない私を、心配そうな顔で覗き込んでくる瀬良先生。

こ、これ以上、近づかないでっ。

心臓がどうにかなっちゃいそうだよっ。

こんなの初めて…

どうしちゃったの?

私ーーーーーーーーー⁇