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ガチャン…



私は玄関の鍵を開け家に入った。

シーン…と静まり返った家の中。

……良かった、誰も居ない。

今のうちに荷物をまとめよう。

そして、とりあえずこの家を出るんだ。

アイツが帰って来る前に早くっ。

私は急いで自分の部屋に入り、キャリーバッグを広げる。

ハハ…、修学旅行用に用意しておいたキャリーバッグが、こんな形で役に立つとは思ってなかったな。

当面の間の着替えをガサッとキャリーバッグに突っ込み、私が部屋のドアを開けた瞬間ーーー




ガチャンッ…




玄関のドアが開いた。




「陽菜ちゃん、そんな大きな荷物を持ってどこに行くの?」




私はねっとりとしたアイツの声に、背筋がゾクッとなる。

ゆっくりと靴を脱ぎ、気持ち悪い笑顔でこっちに向かってくるアイツ。

「ねぇ、陽菜ちゃん、質問に答えて。どこに行くの?」

笑顔なのにアイツの目は全く笑っていない。

ヤバイッ!

そう思い私は急いで部屋に戻り鍵を閉めた。

どうしようっ⁈

なんか今日のアイツ、いつもより変だっ!

怖いっ、怖いよっ‼︎

ガチャ、ガチャ…

ドアノブが上下に動く。

「ねぇ、陽菜ちゃん、ここを開けて」

ドアの向こうからアイツのねっとりとした声が聞こえてくる。

ガチャ、ガチャ….

「ねぇ、陽菜ちゃん、聞こえてる?」

私はアイツの質問に一切返事をしなかった。




そしたらーーー





ガチャッ、ガチャッ、ガチャッッ…



激しく上下するドアノブ



「聞こえてるんだろっ!開けろよっっ‼︎」



ドアの向こうでアイツが、今まで聞いたこともない荒々しい声で怒鳴り始めた。



ガチャッ、ガチャッ、ガチャッ、ガチャッ、

ガチャッガチャッガチャッガチャッガチャッ

ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ



どんどんドアノブの上下する音が、激しく大きくなっていく。



嫌だっ!



怖いよっ‼︎



誰か助けてっ‼︎




ーーー瀬良先生っっっ‼︎



私はブルブルと震える手でスマホを操作する。

何度も間違い、やっとのことで瀬良先生の電話番号を表示することが出来た。

発信音が鳴るか鳴らないかというくらいの早い段階で瀬良先生が電話にでる。

「藤崎、どうした?」

「瀬良先生っ、助けてっ」

私は恐怖で出にくくなっている声を必死に絞り出した。

「何号室だ?」

「に、二〇三っ」

私が伝えると同時に通話が切れた。

ガチャガチャガチャガチャガチャッ

「陽菜ーっ!いい加減にここを開けなさいっ!」

アイツが怒り狂ったように叫んでいる。

「瀬良先生、早く来て….」

私は部屋の隅に身体を小さくしてうずくまり、耳を塞ぎ瀬良先生が来てくれるのを待った。