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陽が沈み空が暗くなってきた頃、体育館で男バスが必死な顔でゲームをしている。

そんな姿を私は、一人でコートの外から眺め考えていた。

今朝の一件から一度も保健室へ行っていない。

何度か瀬良先生が教室まで私を探しに来ていたみたいだったけど、私は必死に避けていた。

……だって、聞かれる内容はわかってるから。

私だって、今すぐに助けて欲しい。

でも…ことがことだけに、なんか言いにくくて。

「何してんの?」

「せ、瀬良先生っ///」

振り返るとそこには瀬良先生の姿があった。

腕を組みながら少し不思議そうに、コートの中を見ている瀬良先生。

「なんか、皆んな必死にゲームしてっけど、なんで?」

「得点を多くとった人が、私を家まで送るって言って…」

家に帰りたくなくて、ここに居るんだけど…

行くあてもないし、やっぱり…帰るしかないのかな?

「…なにそれ、面白そうじゃん」

「え?」

「ちょっとコレ持ってろ」と言って白衣とネクタイを私に預ける。

シャツの襟元から見えた綺麗な鎖骨や、腕まくりした瀬良先生の腕の筋にドキッとなる。

「俺も混ぜろっ」

そう言って、楽しそうにゲームに参加する瀬良先生は少年のような顔つきになっている。

……あ、ドリブル上手い。

あの牧野くんと対等にやれるなんて、瀬良先生ってば凄い。

あっ、バックビハインド⁈(体の背後でボールをクロスするドリブル)

しかも、早いっ‼︎

あっと言う間に、エースである牧野くんを交わしシュートを決めた瀬良先生。

………かっこいい。

気がつけば私は、瀬良先生のバスケをしている姿にずっと見惚れてしまっていた。

今が遅い時間で良かった。

だって、まだ早い時間だったら牧野くんのファンの子達がいて、さっきの瀬良先生の姿を見たら皆んな瀬良先生のファンになっちゃう。

「おーし、藤崎、俺と帰るぞっ」

瀬良先生は満足そうにコートから出てきて、私の手から白衣とネクタイを取った。

「別に、一人で帰れます」

「それじゃ、せっかく俺が勝ったのに意味ねーじゃん」

「そもそも、どうして瀬良先生がゲームに参加してるんですか?」

「そんなの決まってんじゃん。あんなオオカミみたいなヤロー達に、お前を送らせるわけにはいかねーだろ?」

「ーーーっ///」

やっぱり、チャラい///

なんなの?この人っ。

天然タラシなのっ?

「なぁに、赤くなってんだよ。ほら、帰るぞ」

瀬良先生は私の頭をポンとしてから、体育館を出て行く。

私はなんだか落ち着かないこの変な気持ちを不思議に思いながら、瀬良先生の後をついて行った。

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「ありがとうございました」

私は瀬良先生の車から降りてお礼を言う。

「…お前、ホント大丈夫かよ?」

瀬良先生も車を降りてきて、私を心配そうな顔で見ながら言った。

…手首の青アザのことを言ってるんだよね?

「……………」

「まだ、俺に話す気になんない?」

「瀬良先生の家に……」

泊めてくれませんか?なんて言えない。

「俺の家?」

「…なんでもありません。じゃ、帰ります」

私は「おいっ」と瀬良先生が引き止める声を無視して、自分の家へ走って帰った。