中は扉の外と違って明るくて、慣れるのに少し時間がかかった。
「さく、ら……?」
すると突然、誰かに名前を呼ばれた。
………この声、知っている。
忘れるわけがない。
もう10年以上も聞いてきた、声。
声を聞いただけで勝手に涙が出てきた。
「おかあ、さん……?」
声をする方を見ると、そこには…
少し歳をとり、痩せたお母さんがいた。
「咲良……?本当に咲良なの……?
ねぇあなた、咲良が目の前に……、幻覚かしら……?」
すると奥から、これも歳をとり、明らかに痩せていたお父さんが姿を現した。
「お父さん…………。」
「え………、さくら、か……?」
2人とも固まって私の方を見ていた。
だから私の方から駆け出した。
「お父さん、お母さん……!!」
そしてやっと現実だと理解したのか、2人も私の方へ寄り、私の前で膝をついた。
「ううう……、咲良……無事だったのね……!」
「ごめんな咲良。辛い目にあったよな、本当にごめんな。父さんのせいで……。」
2人は泣いていた。
初めて2人が泣いているのを見た気がする。
「私は元気だよ……大丈夫……。
本当に、お父さんとお母さんだよね……?
すごい痩せてるよ……。」
2人は明らかに痩せていて、それを見てまた泣いてしまう。
「咲良……咲良……!
良かった、会えて良かった……!」
泣いている2人を見て、余計に悲しくなった。
だって私、15分後には………また2人と離れて、それで2人のことを忘れてしまうんだから。
「あの、ね……、お父さん、お母さん…。」
「記憶を思い出したってことは、もう一度一緒に暮らせるのか?」
「そういうことよね………、やっと、咲良のいない生活が終わるのね……!」
違う、違うよ。
その逆で、もう一度、離れ離れの生活が始まるんだよ。