うそ……。
その瞬間、金縛りにでもあったかのように体が固まって動けなくなる。
男はこちらに向かって走ってきた。
「あいつだ!!」
「急いで取り押さえろ!!」
反対側からは騒ぎを聞いた交番の人が数人走ってきたけど、明らかに男の方が距離が近かった。
動け!私の体……!!
足が石のように重く動かない。
あっという間に近づいてきて、男は凶器を振り上げた。
刺される……!
とっさに目をつむり、体を縮こめた。
でも、痛みが一つも感じない。
嫌な予感しかしなかった。
だって、ふわりと何かに包まれた感じがしたから。
「男1人確保!!」
「動くな!!」
「早く救急車を!!」
ほんの数秒の出来事。
でも、とても長く感じたのは気のせい……?
「智樹……?」
私は智樹の名前を呼ぶ。
するとゆっくりと智樹が私から離れた。
でも智樹は……苦しそうに顔を歪めていた。