「咲良ー、お風呂入りなさーい」
お母さんの声がドアの外から聞こえた。
お風呂に入ろうと、ドアを開けて一階に降りる。
リビングにはお父さんが帰って来ていた。
「さーくらぁ〜!ただいまー!!
今日浴衣着たんだって!?どうしてお父さんに見せてくれないんだよー!」
相変わらず元気なお父さん。
その時、ふと思い出す。
入坂と伶奈が付き合った日に教室で脳裏に浮かんだ記憶を……。
『同じ名前同士、仲良くしようね!』
………お父さんとお母さん、何か知ってるかも。
そう思い、私は2人に聞いて見た。
「ねぇ、お父さんとお母さんの知り合いの子供に私と同じ“さくら”って人とかいた?
私と同い年ぐらいの……。」
なんとなく、聞いただけ。
それなのに、一瞬で空気が変わった。
………え?
2人は固まっていた。
な、何かあるのかな……?
少しの沈黙の後、お父さんが口を開こうとした時、突然お母さんが声を張り上げた。
「何を言ってるの!!?そんな人いないに決まってるじゃない!!
いい加減なこと言わないで!!!咲良はあなただけなんだから!!!」
お母さんは、怒っていた。
どうして怒るの……?
それが逆に私を不安にさせる。
小さい疑問が大きい疑問へと変わっていく。
どうしたらいいのかわからず困っていると、さっきの明るさとは真逆の落ち着いた声でお父さんが喋った。
「知り合いの子供に“さくら”という人はいなかったよ。
さぁもうお風呂に入ってきなさい。」
「…………うん……。」
私は返事しかできなくて、すぐにお風呂場へと向かった………。