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こんな世界は狂っている。
少女はひたすら嘆いた。蝋燭に灯された、朽ちたアパートの非常階段下が今日の寝床だった。自宅は白人が押し込み秘密基地だと笑ってトラップを仕込んで血溜りになったので戻れない。親族は暴走族になって交通事故、国家権力万歳と犯罪行為を繰り返して処刑、頼れるはずもない。
否。そもそも少女に味方はいない。頼る、という考えないのがその証。即ち。
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ねえ、皆狂ってるよね。
少女の味方は始めから一つ。
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自分に温もりを与えてくれる人形だけだった。
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くすくす。母の人形が笑う。
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けたけた。父の人形が笑う。
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お前は悪くない、と笑う人形。
そうだよね、少女はそう安心して眠りに就いた。いまや心休まるときは夢の中だけだった。
そこには皆がいる。
元気に自分を呼ぶ愛犬の声。
夕日を背に手を振る同級生。
お菓子をくれる隣のおばさん。
よくからかう隣のおじさん。
いつも遊んでくれる隣の兄さん。
具合が悪くなると面倒を見てくれる担任。
入院中に寄せ書きをくれたクラスメイト。
道端で見かける酔った外人。
毎年来てくれる優しい伯母。
幼なじみだけど大好きな従兄。
優しく髪を撫でてくれる母。
強く抱き締めてくれる父。
夢の中には幸せが満ちていた。それはここにはない奇跡、遠く忘れ去られた過去、二度と触れられない幻。
暖かかった昔を前に、少女は眠った。あどけない寝顔を眺めながら、身動きもできない人形は笑った。
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お前は悪くない。悪いとしたら、それは
表情のない人形は、互いに向き合った。口元からは笑いが漏れている。そういうように作られたのだ。
だから、二体は笑う。