それは蝉がなく頃の物語。

 いつか聞こえた耳を食い破る騒音。犯シ侵シ冒シオカサレル夏の頃。
 かつて壊れた夏の心。燻りいぶり突き囁く魔性の熱の時期。
 少年は蝉に踊らされ。



 それは時の凍る頃に起きた噺。

 いつまでも続く狂演、繰り返される狂乱、止み方を知らない狂気。
 かつて生きた友もなく、優しさを与える人もなく、歪に嗤う人形が在った。
 少女は時に縛られて。



 それは降り続ける雨の演劇。

 いつからか止むことを忘れた水滴、濡らすことに疲れた雫、飲み干す渇きに餓えた空。
 かつて。そこに人は居た。いまは、独りの魔法使いが風雨の中で濁流に打たれているだけ。
 魔法使いは雨を享受し。



 在るのは、音。
 喧しい音、耳が痛い音、身を叩く音。
 蝉も時間も雨も鳴き続ける、夏の頃に。
 誰も彼もが呟いた。



 蝉時雨――――