うるさく騒ぎ出す心臓を無理矢理押さえつけ、玄関ロビーへ向かう。

千歳さんが追ってくるわけでもないのに、エレベーターが到着する時間が待ち遠しい。



真っ赤な顔をした自分を絶対に見られたくない。

無意識に何度も視線を千歳さんの玄関ドアに向けてしまう。

やっと到着したエレベーターに飛び乗って、『閉まる』ボタンを連打した。



田村さんは玄関ロビーに現れた私の顔を見て。

約束の時間を過ぎていたことより、見たことのない顔をした私が気になったと言った。


「ここを自由に使ってちょうだいね」


田村さんが更衣室兼休憩室、執務室として使用している小さなスペースを貸してくれた。

小振りのロッカーが二つ、隣りに小さな机が置いてある。


「鍵は須崎様から穂花ちゃんに渡すように言われていたから。
こっちのロッカーも空いているからよかったら使って。
……それにしても、全く別人ね。
最初に来てくれた時、誰だかわからなかったわ。
響様もお気付きにはならないでしょ」



感嘆に近い声で話す田村さんに、私は苦笑いを浮かべ、遅刻したことを謝罪した。

「いいのよ。
私も急に帰国されて驚いたわ。
無事に穂花ちゃんが出てこられるか心配だったもの」

「……はい。
本当に……」



興味津々な様子の田村さんに苦笑いして、私はウィッグを外し、着替えを済ませた後、先程までの経緯を話した。

四年前に既に出会っていること以外は。



「響様に気に入られたのね、穂花ちゃん。
……普段はもっと可憐な女の子なのに……その地味な格好が勿体ないわ……」

残念そうに笑う田中さんに、明後日からよろしくお願いしますと告げて、私は自室に戻るため再びエレベーターのボタンを押した。