怪訝な表情を浮かべる私に。

千歳さんはフワリと天使のように微笑んだ。



「……初めて入る部屋なのに、最初に足を踏み入れた時、まるでずっと過ごしてきたかのように居心地が良かったからさ。
風を通したり、手入れをしてくれてたんだなって」

その笑顔と言葉が嬉しくて私は俯く。

「……い、いえっ……あ、ありがとうございます……」



尻すぼみになってしまった返事に。

ヒョイと千歳さんが楽しそうに私の顔を覗き込む。



「さっきまであんなに威勢がよかったのに、まさか照れてる?」

「……なっ、て、照れてません!
ご……ご用事がなければ本日は失礼いたしますっ!」



勢いよく言って踵を返す私の後ろ姿を追いかけてくる千歳さんのクスクス笑い。

「明後日から勤務開始な!」


振り返った私の瞳に飛び込んでくる端正な顔立ち。

その闇夜のような瞳に浮かぶ微笑みが悔しくて懐かしい。



「し、失礼しますっ!」

ペタンコ靴に足を強引に突っ込んで、私は部屋を出た。