私の腰に片手をまわして、千歳さんが支えてくれた。

細身なのに、私を支える腕はとてもしっかりしている。

強がっていたことが露見して恥ずかしくなり、思わず俯いた。



「……ごめん」



笑われる、と思ったのに頭上から降ってきた言葉は意外なものだった。

顔を上げた私の瞳に映ったのは。

真摯に謝罪を口にする千歳さんの姿だった。



酷い言葉を許すつもりはなかったのに。

先刻の彼の事情を聞いたことと。

その姿が胸に刺さって、自然に言葉が口をついた。



「……いえ、私も立場も弁えず言い過ぎました。
申し訳ございません。
お疲れでご帰宅だったのに……見ず知らずの他人が自宅に居座っていたら嫌ですよね……」

「いや、それは俺が何にも言わずに帰国したからで……君には……っと、ごめん。
名前……」


バツが悪そうに千歳さんは私の顔を覗き込む。


「……か、葛、か、花穂です」

「……か、多いな……」


クシャッと表情を崩して千歳さんが笑った。


……ドキンッ。

飾り気のない笑顔に私の胸がひとつ、大きな音を立てた。


「……あれ?
怒った?」


答えない私の顔を更に覗き込むように綺麗な顔を近づける千歳さんに。

慌てて距離をとろうとした。

その時、千歳さんに腰を支えられたままなことに気が付く。


「あ、あのっ。
も、もう大丈夫ですからっ、も、申し訳ありません」

「うん」


そっと丁寧に離された千歳さんの手。

千歳さんが触れていた場所がじんわり熱をもっている。