……でも。

私は。

何処かでこの瞳を間近で見た。



囚われてしまいそうな深い漆黒の瞳。

その鋭さがある一方で。

熱情と寂しさを含んだ漆黒の瞳。



そんなアンバランスさを孕んだ瞳を私は確かに知っている。



いつだろう?

何処で?

すぐそこまで出かかっているのに、思い出せない。



黙りこんでしまった私に。

何を勘違いしたのか、千歳さんはクッと口角をあげて。

クイっと私の顎を掴んだ。

その感触に我に返る。



元々無かった距離がどんどん詰まって、千歳さんの綺麗な顔が眼前に迫る。

……キス、される!?



そう思った瞬間。

パンッ。



強張っていた身体を無理矢理動かして顎にかかる指を振り払った。


「……へぇ、やるじゃん」


感情のこもらない声。


「……私は雇われた身ですが、こんなことまで受けるつもりはありません。
こういうことができる方をお探しでしたら、ご自身で奥様にお伝えください」



キッと再び千歳さんの顔を睨み付ける。

彼の顔からは表情が窺えない。



ああ、もう、最悪だ。

頼まれた仕事も何もかも。

始まる前に終わりだし、何より思い出の御曹司に幻滅した。



女が皆、自分に惚れる、言い寄るとでも思っているのだろうか。