微笑みながら、彼は長い足で私との距離をあっという間に縮めてきた。



今、まさに玄関で靴を履こうとしていた私の肩をトン、と指で押す。

振り返り様の中途半端な身体が壁に傾ぐ。



私の顔の両側にトン、と千歳さんは両手をついた。

身体が完全に千歳さんに囚われる。



頬のすぐ近くにある手は私のものより大きい。

男性らしい骨ばった手。

指は長く、爪もとても綺麗な形をしている。

間違いなく私が見てきた男性の手で一番綺麗な手だ。



相変わらず、作ったような笑みを浮かべて、彼は顔を近づける。

身長差がありすぎるので、自ずと見上げることになる千歳さんの顔をキッと見据える。



「……何をするんですか」



押し出した言葉。
震えそうになる唇を必死で動かす。

「んー別に?
面白そうだと思って」



全く笑っていない瞳でニッコリと口角をあげる千歳さん。

至近距離でみても驚く程整った顔立ち。

瞳も鼻も。

一つひとつの造作がとても綺麗だ。



気を抜くと吸い込まれそうになる闇夜を映したような瞳。

でもその瞳には温もりが感じられない。

真冬の闇夜のように冷え冷えとしている。