「……え?」



頭を上げた私の横をサッサと通り抜けて、彼は室内に入る。

スーツケースは玄関に置きっぱなしだ。

車輪を拭いて部屋に入れたほうがいいのかと思案している間にも、彼は届いたばかりのソファの梱包を外している。



「あ、あのっ」



とりあえずスーツケースはそのままに、リビングに足を踏み入れた私を一瞥して、彼は凄まじく綺麗な笑みを浮かべて話しかける。



「……だから必要ないんだけど?
やっと帰国したと思ったら、いきなり部屋には知らない女が居座っているし。
俺としては迷惑なんだけど。
ってか、梱包くらい外しておいてくれたらいいのに。
気が利かないね。
それでお手伝いさん?
給料ドロボーだね」

辛辣な言葉に目を見開く。

「君を依頼したのは母でしょ?
見る限り俺より年下っぽいけど、何を企んでるわけ?
まさか俺の縁談相手?
言っとくけど、甲斐甲斐しく俺の世話を焼いてくれても君とどうこうはならないよ?
全く俺のタイプじゃないし」



口元には優しげな笑みが浮かんでいるけれど。

目元は全然笑っていない。

凍りついたような冷たい黒い瞳が真っ直ぐ私を射抜く。



……確かに私は有子おばさまに頼まれたけれど。

女性関係を調べてほしいと企みのような依頼を受けたけれど。



だからといって、初対面なのにそんな言い方しなくても……!