「……誰?」



気だるそうな声にハッとする。

目の前には細身のスーツ姿の背の高い男性。

綺麗な二重の瞳。

呑み込まれてしまいそうな真っ黒の双眸。

スッと通った鼻梁に薄い唇。

闇を写し取ったようなサラサラの黒髪。

何処と無く中性的な雰囲気を漂わせる、綺麗な男性だ。



「俺、部屋を間違えてる?」



その言葉に。

慌てて私は声を発する。


「あ、あのっ。
もしかして……響千歳様、でしょうか……?」


もしや、と思って雇い主の名前を口にすると。



「そうだけど……ああ、じゃあ君が例のお手伝いさん?」



納得した、と言わんばかりに彼は少し表情を緩めた。

やっぱり……!

この人が千歳さん。

見惚れてしまうくらいの凄まじく綺麗な容貌の男性が。

幼い頃の記憶では顔立ちは曖昧で。

ハッキリとした印象がない。



瑞希くんも樹くんも充分にカッコいい男性だけれど。

彼らとは雰囲気の違う秀麗な顔立ちに驚く。

近い距離でもわかる、肌の綺麗さ。


「……あのさ」


呆然とする私に面倒くさそうに彼がまた話す。


「も、申し遅れましたっ。
私、葛……花穂と申します。
こちらのお部屋のお掃除等、担当させていただきますので……」


できるだけ丁寧に。

偽名を間違わないように。

秘書の仕事で培った精神力をフル稼働させて、冷静さを幾分か取り戻す。

頭を下げた私に。



「必要ないんだけど」



容赦ない一言が降り注いだ。