「……まさか。
穂花、冷静になれ。
告白されて動揺してるだけだ」


焦る瑞希くんに、ゆっくりと首を横に振った。


「……ううん、違う。
私は千歳さんが、好き」

「穂花っ……」


その瞬間。

立ち上がって、一気に距離を詰めた瑞希くんが私を強い力で抱きしめた。



「……頼むから、言わないでくれ……」

「……み、瑞希くん……?」


突然の出来事に驚く。

瑞希くんは黙ったままで、私をギュッと抱きしめる。


「……何でよりによって、千歳なんだ……!」


今まで何度も触れてきた瑞希くんの手が、今日は全然知らない人のようで。

瑞希くんも男性なのだ、と当たり前のことを思い知った気がした。


ピンポーン。


静寂を打ち破った呼び出し音がリビングに響く。

その音にハッとして、瑞希くんが私を抱き締める腕をほどいた。


「……ごめん」


長い睫毛を伏せて私から顔を背ける瑞希くん。

整った端正な顔立ちに、後悔のような苦い表情が滲む。

クシャリ、と髪をかき揚げて、瑞希くんは悲しそうに呟いた。


「……ずっと穂花だけを見てきたんだ。
穂花を誰にも渡したくない……」

「……え……」


呆然とする私を置いて。

瑞希くんは玄関へ向かった。