最上階は丸ごと公恵叔母さんの部屋になっている。

エレベーターを降りて玄関の呼び出し音を鳴らすと、すぐに扉が開いた。


「……穂花」


少し疲れた表情をした瑞希くんが迎えてくれた。


「……瑞希くん、さっきはごめんね。
……千歳さんのこと、誤魔化してくれてありがとう」


努めて明るく言うと、瑞希くんは端正な顔立ちを少し歪めて尋ねてきた。


「……千歳は?」

「会社に戻ったみたい」

「そっか……立ち話も何だから入って」


瑞希くんがマンションの他の部屋とは違う、重厚なドアを大きく開けて私を促す。


「……お邪魔します」


この部屋には何度か来たことがある。

白い大理石の広い玄関を抜けると広がる開放的なリビング。

窓の外には夕闇が広がる。

殆ど訪れる人がいない部屋だけれど、いつもきちんと掃除されて整頓されている。


「適当に座って。
何か飲む?」


リビングのすぐ近くにあるダイニングキッチンから瑞希くんが声をかけてくれた。


「……ううん。
これから舞花が来るから部屋に戻らなきゃいけないし」

「舞花が?
だったら舞花もこっちに呼んだら?
とりあえず今はここにいるって連絡しておきなよ」


いつもの瑞希くんらしく穏やかにそう言われて。


「そうだね」


私は素直に応じた。