ちなみに森越くんとは、今、私が片思い中の相手である。
彼はサッカー部で、成績も良く、物静かな人だ。
「別にどうもなってないし。てか、緊張して、まともに話せてすらないよー」
「えー、そうな…うわっ、最悪…!アイライン、ずれた!!」
「器用だねー」
「器用じゃないし。さっき、ずれたって言ったじゃん!
てかさ、紗和って化粧したこと、ないの…?」
「無いよ」
即答で答える私に友人は、目を見開いて凝視する。
「一回も?」
「もちろん」
「やろうとは?」
「そんな思うかい」
一問一答で綺麗に仕上がる会話が繰り広げられた。
そんなやり取りの中で、唯一返せなかった質問が出た。
「なんで?」
「え…」
「森越くんの為にとかさ」
これには回答に困った。
先程は長々と語ったが、この化粧について、良い部分を知っている友人には、きっと何を言っても理解してもらえない、と思ったからだ。
すると、答えることが出来ずに困り果てている私を見た友人は、妖しく微笑んだ。
身の危険を感じた。
それは見事に的中していた様だった。
私はその場を全力で逃げ出した。
「顔を弄らせろーっ!!」
「絶対嫌だー!!」
友人は何とも恐ろしい形相で、後ろから追いかけてくる。
この世の終わりを覚った。
結局、私は友人に搦め捕られてしまったのである。