「ん?なに?あ、ごめん、その辺に座って」

あたしの部屋よりもはるかに広い菊谷くんの部屋で、あたしは立ちつくしていた。

「菊谷くん。あの…」

でも、あたしが声をかけたのは、それが理由ではなかった。

「さっきの…ありさちゃんって、」

「あぁ、夢希は気にしなくていいよ。それより何か飲む?暑かっただろ?ジュース持ってくるわ」

菊谷くんはさらりと交わすと、笑顔で部屋を出て行ってしまった。

なにかーーそれが何だかわからないけど、触れてはいけない「なにか」だと感じた。

少しして菊谷くんが、ジュースを手に戻ってきた。

それから、のんびりと夏休みの宿題をやったりして過ごした。

「夢希はどこの高校受けるの?」

「…まだわかんない。まっすーはN高を勧めてくれたけど」

「夢希も担任のことまっすーって呼んでるなんて、初耳(笑)」

「え、だって佐久田くんが言ってたから。菊谷くんがつけたあだ名だって教えてくれて…」

菊谷くんが茶化すから、何だか恥ずかしくなる。