「少しは好きになれたか?夢希って名前」

「…」

そんなことを、覚えていたのーー?

自分の名前が嫌いだと、夢も希望もないんだと、そう言った時のことを、まだ覚えていたの…?

「そっか、良かった」

佐久田くんは、やっと暗くなった空を見ながら言った。

あたしは何も答えなかったのに、何が"良かった"なのだろう。

本当に、全てお見通しみたいだから不思議だ。

「…これからもきっと、色んなことがあるから」

「……うん」

佐久田くんは、空を見上げたままだった。


生きていれば、色んなことがある。

何もない毎日なんてない。

何回も、あたしにそう言ってくれた。

言われた時は戸惑うこともあったけど、今のあたしには、素直に受け入れられる言葉だった。

「おまたせー。屋台かなり並んだわ」

「おう、悪かったなリョウ。持つよ」

菊谷くんが両手に持っていた袋の半分を、佐久田くんは受け取った。