「夢希」

名前を呼ばれ顔を上げると、佐久田くんはヘラっと笑っていた。

「いい加減、ロウって呼んでよ」

「え…む、無理」

男子のことを下の名前で呼ぶなんて……10年くらいしていないんじゃないか、っていうくらい記憶になかった。

「なんでー?1回だけでいいから!」

「……ろ、」

やっぱ無理、恥ずかしすぎる。

だいたい何で、今この話題なんだ。

「ろ?」

佐久田くんが、意地悪く笑う。

あーもう…っ!

「ロウ。…はいっ、言ったよ!」

顔から火が出そうだ…もしかしたら、もう出てるかも。

「ありがと、夢希。オレはこれでいいや」

「……」

"これでいい"?どういう意味だろう……。

「てかさ、夢希」

さっきから周りはガヤガヤと騒がしいのに、佐久田くんの声は不思議と何にも邪魔されない。

そのキレイな声は、澄んだ青空のようだった。