「行ってきます」

「夢希ちゃん忘れ物ない?お財布持った?大丈夫?何かあったら連絡するのよ?」

「…小学生じゃないんだから」

お母さんの一生懸命なかんじに、笑いそうになる。

あたしは家から一歩外に出て、思った。

学校に行く以外は、家にいることが多いあたし。

こうして出かけることがどれだけ久しぶりか、お母さんの態度で実感した。

お母さんの中では、小学生の子どもが初めてひとりでお使いに行くのと今のあたしは、何も変わらないのかもしれない。

それなら、一緒に夏祭りに行く友達のことを、もっと詮索すればいいのに。

あの2人と行くって、聞かれてないから言ってないし。

そういう、ちょっと抜けたところがお母さんらしいのかも。


陽は長く、真夏の18時半前はまだ明るかった。

「さ…」

「あ、夢希!」

待ち合わせ場所の学校の校門前に着いて、佐久田くんの後ろ姿を見つけた。

でも、その名前を呼ぶより先に、振り返った佐久田くんに逆に名前を呼ばれてしまった。