隣では水野が岡明と喋っている。すごく楽しそうな笑顔だ。吹奏楽部だった時もこんな風に笑っていたんだろう。
10月。合唱祭の時期だ。
ソプラノの岡明、アルトの水野、男声の俺で課題曲のソロをやることになっている。
今はその練習中だ。水野は自信がないらしく、岡明と合わせている。
岡明の声はよく通るけど、俺は水野の声の方が好きだ。中性的でソプラノと男声のバランスをとる安定した声。
「青柳くん!」
不意に水野に声をかけられる。
「やろ!今なら出来る気がする」
今ならってなんだよと思いながら
「おー」
返事をする。すると水野は、へへっと笑った。
楽しそうな笑顔。弟のことを知ったら、きっと…。
暗くなりそうな気持ちを振り切ってラジカセの電源を入れる。