カツカツと靴音をたてながら、先生がベッド脇までやって来た。



「軽い脳しんとうだったみたいね。だけど一応、今日は早退して病院に行きなさい。担任の先生には言っておいたから」

「はあ……」

「たぶん覚えてないだろうけど、あなた階段から落ちた後、友達の呼びかけに反応して1度目を覚ましたのよ。だけど起き上がりかけて、また意識がなくなっちゃってね。だからとりあえず、ここに運んできたってわけ」



保健室送りになるまでの経緯を一通り話し終えた先生は、腕を組んで俺の顔を覗き込む。

うん、覚えてないな。記憶があるのはかろうじて、落ちる直前悠介に名前を呼ばれたことくらいだ。



「打った頭の方、大丈夫? たんこぶできてるでしょ」

「あー……触ると痛いっす」

「まあ、こんなこと言うのもアレだけど……女の子よりは普段鍛えてる男の子が落ちた方が、まだダメージは少なかったのかな」



言われてから、俺はハッとして自分の体に意識を向けた。

右手。左手。右足。左足。

それから、軽く首も回してみる。

……よかった。多少打ち身のような痛みはあるけど、怪我というほどではない。

とりあえず今はどこも問題なく動かせることに、大きく安堵の息を吐く。

3年のこんな時期に故障して野球ができなくなったりしたら、シャレにならないからな。