けどまあ、汐谷を引き合いに出しとけばたいていの場合悠介は大人しくなるし。

そんなわけで今回も存分に利用させてもらったわけだが、今度は悠介がわざとらしいくらいのため息をつく。



「ほんっとヒロは、とりあえず琴里の名前を出しとけば俺がなんでも言うこと聞くと思って……」

「いや、事実だろ」

「否定はしませんけど!」

「即答か」



こいつ、まさに“彼女バカ”ってな感じで汐谷のこと溺愛してっからな。

なのになんで、無意識に他の女にも調子良く軽口を叩いちまうのか……『え、女の子はみんなかわいいじゃん』とか素で言えるタイプだしなこの男。

そんでそのせいでヤキモチやら何やら悩んだ汐谷が俺に相談してきて、さらには同じタイミングで悠介までもが泣きついてきて。……ってな具合に、延々と続く無限ループ。面倒くさすぎる。



「……まあ、でも」



ちょうど、1階へと続く階段にさしかかったとき。

悠介が何か思案するようにあごのあたりに左手をあてながら、また口を開いた。