へっ⁉︎


磯野、今なんて__?


きっと僕は、絶句している花沢さんの何倍も驚いていたはず。


丸眼鏡の奥の目が、パックリ開いていたことだろう。


一瞬の静寂のあと、花が咲いたように教室が輝きだした。


なんと。


なんとなんと、花沢さんが頷いたからだ。


もしアニメなら「やだ、なに冗談いってるのよ磯野くん‼︎」なんて、バシッと肩を叩いて終わるのに。


クラスメイトが2人を取り囲み、囃し立てる。


でもいつもの嘲笑いじゃなく、アニメを凌駕する勇気を賞賛する、暖かいもの。


その時、人垣から磯野がこちらを振り向いた。


間違いなく、僕を見たんだ。


あんなはにかんだ磯野の顔を、僕は初めて見た。だから_軽く手を上げた。


良かったな、そんな意味を込めて。


授業が始まっても、何度も視線を交わす2人。休み時間にはあえて、その話題には触れなかった。


触れられなかったといったほうがいいか__。


「おい磯野、一緒にテスト勉強しないか?」


「悪い中島、今日は先に帰るわ。またな」


なぜか逃げるように行ってしまった磯野。


こっそり後を追いかけると、花沢さんと待ち合わせしていたようだ。


2人が並んで帰っていく。


途中で、手を繋いだ。


どんどん2人が遠くなっていく。


磯野くんと花沢さんが付き合うなんて、アニメだったら最終回もいいところじゃないか。


なぜか僕は、拳を固く握り締めていた__。