「もし、この蕎麦がとても美味いとしようか」
「あ、ごめん。おじいちゃんの蕎麦は美味しいよ」
「お前の大好物だからな。そのとても美味いものを目の前にして、もしこれを食べさせたいと1番に思い浮かべた相手__それが、お前の好きな相手だ」
真っ先に浮かべる相手。
楽しいことを1番に知らせる。
悲しいことを1番に相談に乗ってもらう。
新しい発見を1番に知らせたい。
そんな相手が、1番に大事に思っている証拠だとおじいちゃんは続けた。
だから僕は黙って蕎麦を食べた。
かつおダシがよく効いていて、僕の好きなとろろが麺によく絡んだ。
ずっと蕎麦職人になりたかったという、おじいちゃん自慢のとろろ蕎麦。
ずずずず。
ずずずず。
どれだけ麺を啜っても、僕の頭の中からは消えない。
吸い込むことができないんだ。
「おじいちゃん、美味しい」
にこやかに見守ってくれるおじいちゃんに、僕はそう答えた。
美味しい美味しい、とろろ蕎麦。
それを豪快に啜る、あいつの顔が浮かんでくる。