「髪?」
「やっぱ先輩に言われっかな?それならちょっと茶色くするとか?」
「な、なに言ってんだよ?」
「坊主ってダサくね?」
「だって、お前ずっと坊主だったじゃないか?それを今さらなんだよ__?」
サーッとなにかが引いていくのが分かった。
僕も、お前がダサいというその坊主なんだ。
「お前も伸ばしてみたくない?」
「__磯野、お前、変わったな」
「変わった?」
「今までそんなこと言う奴じゃなかった。野球一筋で球も真っ直ぐだった。僕はお前の球を受けてるから分かる。最近の磯野の球は__浮ついてる」
「なんだよそれ」
「浮ついてるんだよ‼︎」
大きな声を上げると、磯野がびっくりしている。
ここで畳み掛けても良かった。
花沢さんと、花沢さんなんかと付き合ったから、野球が疎かになっている。だから野球部員にあるまじき、髪を伸ばすだなんてことと、叩きのめしてやっても良かった。
でも僕はそうしないで、その場から走って逃げた。
逃げたんだ。
磯野から。
嘘をついた、自分自身から__。