変な感じだった。
いつもの投球練習。
いつもの磯野を見ている、僕の目を通して、磯野を見ている、そんな感じ。
なんだか磯野が二重に見えた。
実際に試合形式でも、いつものように三振を重ねていくのに、どうしても磯野から目が離せない。
これまで当たり前だった磯野が、当たり前でなくなってしまったように。
一体ぼくは、どうしちゃったんだろう?
今日も、当たり前のように花沢さんと手を繋いで帰っていく磯野。
まるで、それがさも当然だとでもいうように__。
1人、部室に取り残された。
いや、1人じゃない。
ジェラシーが居るじゃないか。
ようジェラシー、お前も丸刈りか?
そんな馬鹿なことを考えていた僕は、なぜか磯野のグローブを持っていた。
キャッチャーミットとは違う、グローブ。
しかも磯野は左利き。
使い込まれているけれど、ちゃんと手入れしてあるところがあいつらしい。
僕も野球に憧れ始めた頃は、ピッチャーを目指していた。
幼い頃からキャッチャーに憧れるなんてことは珍しい。
それがいつからか__おそらく、磯野のピッチングを見た時、こう思った。
あの球を__受けたい。
それからキャッチャーに転向した。想像した通り、磯野のストレートは心にまで届く。真っ直ぐで偽りのない思いが、心に響くんだ。
そのストレートは今、花沢さんに向けられている。
グローブから、熱が伝わってくるような気がした。
僕はそっと、手を入れ込む。
胸が熱くなる。
体が、燃えるように熱い。
磯野の手と、重なり合ったからだ。
そのまま抱き抱えるようにして顔を包み込むと、香ばしい匂いが__。